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Global Legal Update

Global Legal Update Vol. 81 | 2022年7月号

ジョーンズ・デイでは、世界各国に広がる40以上のオフィスが、現地の法令や判例等の最新情報をAlert/Commentary等としてお伝えしています。その中から日系企業に特に関心が高いと思われるものを以下でご紹介します。なお、英文部分の各リンクからAlert/Commentary等の原文をご覧頂けます。

独占禁止法・競争法

日本の裁判所がカスタマーレビュー・アルゴリズムの変更を優越的地位の濫用と認定
Japanese Court Holds That a Customer-Review Algorithm Change Abused "Superior Bargaining Power"

東京地方裁判所は、2022年6月16日の判決において、レストラン・レビュー・プラットフォームによる一方的な格付けアルゴリズムの変更が、独占禁止法上の優越的地位の濫用に該当することを判示しました。

日本の独占禁止法は、優越的地位の濫用を含む広範な「不公正な取引方法」の禁止を定めており、これは欧州の競争法における「市場支配的地位の濫用」(abuse of dominance)とは異なる日本独自の規制です。ある事業者が、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、相手方の不利益となるように取引の条件を設定若しくは変更し、又は取引を実施することは、優越的地位の濫用として禁止されます。これにより損害を受けた当事者は、公正取引委員会に通報するほか、民事訴訟により損害賠償を請求することが可能です。従来、この規定の典型的な適用事例としては、大規模小売業者による小規模な納入業者に対する、事後の値引きや返品の強要があげられました。しかし、近年、公正取引委員会は、同規定の適用を拡大し、コンビニエンスストアのフランチャイザーによる加盟店に対する24時間営業の要求や、オンラインモールの出店者に対する送料無料の要求についても、優越的地位の濫用に該当し得るものとしています。このような優越的地位の濫用の規定に対しては、しばしば、曖昧で、自由市場における競争に過剰に干渉するものという批判がなされています。

本件においては、レストランレビューサイトを運営する食べログが、口コミの星の数による5段階の評価を決定するアルゴリズムを変更し、小規模な店舗を優遇してチェーン店が一律に減点されるような設定を行ったところ、広告、アナリティクス、予約サービスといった食べログの有料サービスを利用する原告レストラン運営会社が、顧客の減少による損失を被ったことを主張し、これが裁判所により認められました。

この事例は、近年の公正取引委員会によるデジタルプラットフォームへの関心の高さを映し出すものであり、これは、世界各国の競争当局の動向と軌を一にするものです。本件において、公正取引委員会は裁判所の要請により意見書を提出し、アルゴリズムの変更が被告のサービスに依存している利用者との関係で優越的地位の濫用に該当し得るという見解を表明しました。本件は、デジタルプラットフォームの一方的なアルゴリズムの変更が違法と評価された日本で最初の事例であり、原告の請求が一部認容されたことから、今後も類似の事案が発生することが予想されます。そのため、デジタルプラットフォームは時として難しい選択に迫られることとなります。すなわち、プロダクトを改善し、ユーザーエクスペリエンスを向上することが、公正取引委員会や損害を受けた当事者からの独占禁止法違反の主張につながる可能性があります。このような状況において、アルゴリズムの変更を行うデジタルプラットフォームは、異なるステークホルダーの関心を検証し、それによる消費者、ステークホルダー双方の利益を明らかにする必要があります。

なお、本件においては、原告、被告双方が東京高等裁判所へ控訴したため、判決は確定していません。

エネルギー

ウクライナ戦争と欧州ガス市場への影響:新たなロシアの対抗措置は深刻な打撃となるか?先行きは不透明
The War in Ukraine and the Consequences for the European Gas Market: New Russian Sanctions a Tit for Tat? Not Quite

ロシアのウクライナ侵攻により、欧州のエネルギー企業はかつてない不確実性に直面しています。ジョーンズ・デイのホワイトペーパーでも報告した通り、ロシア及びベラルーシに対して、多くの国が次々に厳格な制裁を課しています。かかる制裁には、ロシアの政府機関、国営企業及び政治指導層に対する制裁、証券取引に関する制約や、エネルギー産業に影響を与える輸出入規制のような広範な制裁が含まれます(直近のものとしては、2022年6月3日付でEUによる原油及び石油製品の段階的な輸入禁止措置が講じられることとなりました)。

ジョーンズ・デイが2022年5月初旬のホワイトペーパーで欧州の下流ガス市場への波及効果について解説して以降、ウクライナ政府は、ロシア産天然ガスのウクライナ東部ルハンスク州を経由する輸送を停止し、代替としてスジャの中継地点を経由するルートへシフトすることを発表しました。その後、ロシア政府は、ドイツ政府の管理下にあるガスプロムの旧関連会社を含む、全世界で31のエネルギー企業を対象とした対抗措置を発表しました。

このホワイトペーパーでは、ウクライナを経由するロシア産天然ガスの輸送に関する最新の展開、ロシアによる対抗措置、欧州の中流・下流ガス市場に対する潜在的な影響、及び市場参加者が考慮すべき法的救済手段について解説します。

その他、2022年6月は以下の情報をAlert/Commentary としてお伝えしています。

商事・不法行為訴訟

米国連邦最高裁判所が合衆国法典第28編第1782条に基づくディスカバリーの仲裁手続きへの適用を否定
Supreme Court Restricts 28 U.S.C. § 1782 Discovery in Aid of Arbitration

サイバーセキュリティ・プライバシー・データ保護

司法省、コンピューター詐欺・不正使用防止法(CFAA)違反の訴追に関する方針を大幅に改定
Department of Justice Significantly Revises Policy on Charging CFAA Violations

フィナンシャル・マーケット

ロシアに対する制裁措置及びパンデミックによる圧力下にあるデリバティブ市場における対応策
Derivatives Markets Under Sanction and Pandemic Pressure: How to Respond

米国証券取引委員会の気候変動関連の開示規則案に対するジョーンズ・デイによるコメントの提出
Jones Day Submits Comment Letter on SEC’s Proposed Climate-Related Disclosure Rules

訴訟・紛争解決

豪州裁判所がクラス・アクション・ファンディングを集団投資スキームに該当するとした判断を変更
Regulation of Class Actions in Australia Revisited … Again

調査・企業犯罪

フランス腐敗行為防止当局の2021年アクティビティ・レポート:方法論的弱点によるコンプライアンスプログラムの不備
French Anticorruption Agency's 2021 Activity Report: Methodological Weaknesses Cause Compliance Program Shortcomings

労働・人事

米国連邦最高裁判所が従業員の仲裁同意書における代表訴訟提起権の放棄を支持
Supreme Court Upholds Representative Action Waivers In Employee Arbitration Agreements

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